私の居場所
 
 
 
 
 
 
 
 
丘を渡る風が、ざわざわと木の葉を揺らしていく
 
「・・・やっぱり、ちょっと風が強いな。寒くないか?」
 
気遣わしげな表情で顔をのぞき込んでくるアイオリアに、は笑顔を返した
 
「大丈夫vvそれに、ここに来たいって言ったのは私なんだから」
 
朝食を食べながらどこへ行こうかと尋ねたアイオリアに、
は「遙永の丘」と答えたのである
 
「まあ・・・がいいなら俺は構わないけど・・・風邪なんかひくなよ」
「本当に大丈夫だよ」
 
思いがけず強い口調で返したに、アイオリアが心配そうな眼差しを向ける
なぜかその瞳をまっすぐ見ていられなくて、は前髪を落として俯いた
 
「・・・??」
 
アイオリアの手が、そっとの髪をなでる
大きくて、温かくて、力強いその手の感触は、
間違いなくアイオリアがそこにいることを伝えてくれる
それなのに、なぜだか切なくて、目の奥が熱くなる
 
遠征に出向くアイオリアを見送りながら、その度に胸をしめる寂しさ
 
(どこへも行かないで・・・ずっと傍にいて・・・一人にしないでっ・・・!!)
 
けれど、それを口に出せるわけもなくて、いつもその思いを噛み殺していた
こらえきれずに零れる涙を見られたくなくて、アイオリアの胸に顔を埋めた
とくんとくん・・・と規則正しく響く鼓動と、暖かな陽射しの匂い
アイオリアの腕の中は居心地が良くて・・・安心できて・・・
 
(だからもう少しだけ、このままでいさせて・・・)
 
何も言わずに、ただ優しく髪をなで続けるアイオリアに、は心の中で呟いた
 
 
どのくらいの時間が過ぎただろう、ふとアイオリアの手が止まった
顔を上げると優しい太陽が見つめている
 
「何かあったのか??」
「アイオリアさま・・・」
 
ほとんど無意識に、その名が口をついて出た
 
「・・・その呼び方、ずいぶん久しぶりだな」
 
レオンが微かに目を細める
なぜ急にそう呼びたくなったのかは、自身にもわからない
ただ・・・
 
「黄金聖闘士になりたてだった時のことを、思い出してました」
「なりたての時のこと??」
「はい・・・冬に、ここに連れてきてくれましたよね」
「あぁ」
 
思い出して微かに頬を赤らめる姿が、の記憶にある、あの日のアイオリアと重なる
 
あの時もこうして、アイオリアの腕の中でその温もりに包まれていた
冷たい風の中、この広い丘の上でたった二人きりで身を寄せ合って、
吐息のかかるぐらい間近で瞳を見つめ合って・・・
 
「あの時・・・聖域に来てから初めて本気で、聖闘士でいたくない・・・って思ったんです」
 
確かにもっと前から、アイオリアのことは気になっていた
他の聖闘士たちとは違う、特別な人だった
 
けれどあの日、アイオリアの腕に包まれた時・・・
胸の中にわき起こったのは、「聖闘士の地位なんていらない」という思いだった・・・
 
「・・・実は俺もあの時、がこのまま聖闘士でい続けるのは嫌だと思ってた」
 
肩を強く抱き寄せられて、再びアイオリアの鼓動が耳に響き始める
さっきよりも少し速くて、さっきよりももっと力強いような・・・そんな気がする・・・
 
「口ではいつも、立派な聖闘士になるために頑張れ、なんて言ってたけど、
 そうなったらが遠くに行ってしまうような気がして・・・本当は・・・怖かった・・・!!
 俺の手の届くところにいて欲しかったんだ・・・
 何があったって俺がこの手で守ってやれるように・・・!!」
 
その言葉に、あの日自分に答えを決めさせたものが何だったのか、
分かったような気がした
理屈ではなく心が感じとったそれは、深い安堵感
心の底からの安らぎ
こうしているだけで、体中にそれが満ちてくるのが分かる
 
「これからもずっと、のことを守るよ・・・!!」
 
耳元に囁くアイオリアの言葉が、全身に染み渡っていく
今まで心の中に積もっていた寂しさや不安が少しずつ溶けて、
代わりに温かいものが心を占める
 
(俺はここにいるから・・・!!
 君を絶対に離しはしないから・・・だからもう不安な顔はするな!!)
 
伝わってくるのは、そんな思い・・・
優しい気持ちで顔を上げれば、アイオリアの瞳が自分の姿を映している
アイオリアの掌に頬を預けて、はそっと瞳を閉じた
 
 
あなたの腕の中-----
ここが、何よりも大切な私の居場所-----