宵一刻。
 
 
 
 
いつものように、ぼっちゃまは修行に励んでいなさった。
先刻、
私は叱りつけられ、黙って傍にお仕えしている。
 
しかし・・・
ぼっちゃまはよろしいのだろうか。
様とのお約束の時間は過ぎているというのに・・・・・。
 
 
 
 
 
 
「馬孫。」
『はっ。』
「なにをそんなにソワソワしているのだ。」
『・・・ぼっちゃま、お時間が・・・・・。』
「時間?なんだというのだ。」
『・・・様とのお約束の刻から、随分と過ぎております。』
「かまわん。」
『し、しかし・・・。』
「そんなに心配なら、馬孫、お前が行け。」
『ぼ、ぼっちゃま!』
「シャワーにいく。」
 
 
 
 
 
ぼっちゃまは本当に湯浴びに行かれてしまった。
そのお姿を見て、私は浮きつくしてしまう。
 
 
 
 
 
 
考えた挙げ句、私が役不足ながら様のお相手をさせていただくことにした。
・・・まだ待っておられるだろうか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『き、様・・・・・。』
「あ、馬孫・・・あれ?蓮は?」
『申し訳ございませぬ!ぼっちゃまは・・・。』
「あ、そっか。いいのいいの、気にしないで。」
『し、しかし・・・様は・・・。』
「私は、買い物して本屋でも寄って帰るから。
わざわざ知らせに来てくれて、ありがとう・・・馬孫。」
 
 
 
一刻待っておられた。
様は、微笑んでおられたが・・・なんとも悲しそうにしていらっしゃった。
 
私の心が締め付けられるほどに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
事の発端は、アンナ様だった。
 
「蓮、アンタたまには買い物行ってきて。」
「何故オレが?!」
行け。
「ほ、ほら・・・一緒に行こうよ、蓮。ね?」
「葉、貴様が行け。」
「いやいや・・・蓮はこれでうちでタダ飯食うのが5回になったんよ。」
「ほ〜ら、も行ってくれるって。じゃ、これお願いね、。」
「うん。」
「な、何故オレが・・・。」
 
 
 
 
 
アンナ様の厳しいお言葉も、様が優しくぼっちゃまに促してくださって・・・。
なのに、ぼっちゃまは・・・。
 
 
 
 
 
馬孫、悲しい・・・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「で、どうだったのだ馬孫。」
『・・・・・。』
「何か言え!」
『瞳に涙を浮かべて・・・お一人で買い物に行かれました。』
「そうか。」
『ぼっちゃま、どうか様のお心を無駄になされぬよう・・・。』
 
 
椅子から立ち上がってツカツカと扉の方へと向かわれる。
私はその後を追う。
 
 
『ぼっちゃま、どちらへ?』
「馬孫、ついてくるな。」
『は、はい・・・。』
 
 
 
どうなされたのだろう。
急にどこへいかれるというのだ。
 
 
ついてくるなと仰られたが、
私はこっそりと上空からついていくことにした。
 
見つかれば只では済まない。
わかっているが、私はぼっちゃまと・・・様が心配だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・バカ正直に買い物など・・・。」
「れ、蓮・・・どうしたの?トレーニングで来られないんじゃなかったの?」
「馬孫から聞いたのか?」
「違うよ・・・見えたんだよ。」
「そうか。貸せ。」
「ん?」
「持っている物を持ってやろうと言っているんだ。」
「・・・ありがとう。」
 
 
・・・ぼっちゃまはやはり様の所へ行かれたのだな。
あの様の嬉しそうなお顔・・・。
少し、ホッとした。
 
 
「ねぇ蓮・・・。」
「なんだ。」
「今度は最初っから一緒に買い物来ようね。」
「断る。」
「そっか。んじゃ、気が向いたら声かけてね。
私、蓮と一緒に行くの、楽しみにしているからね。」
「きっ、貴様・・・その能力、なんとかならんのか!」
「貴様じゃないよー。だよー。」
「名を呼ばずともいいではないか!」
 
 
 
フフッ。
ぼっちゃま、照れていらっしゃる。
様なら、ぼっちゃまの心の奥底のお気持ちを
わかって下さるから・・・安心していられる。
 
 
「アンナに言っちゃうぞー。蓮がサボったって!」
「おい、貴様!」
「貴様じゃないって。だって。ほら、呼んでごらん?」
「ふ、フン!」
「アンナー!あのねぇ〜。」
「きっ・・・!」
 
 
 
 
 
なんだかお二人を見ていると・・・
私までくすぐったいしあわせな気分になる。
ぼっちゃまがしあわせになるのは、この馬孫もこんなに嬉しいことはない。
 
 
「蓮。」
「な、なんだ。まだ何かあるのか。」
「ありがとう、名前呼んでくれて。」
 
ちゅ。
 
 
「ヘヘへ・・・。行こう、みんな待ってるよ。」
「あ、ああ。」
 
 
 
 
 
もう・・・ぼっちゃまったらv
 
『おい、馬孫。なにニヤニヤしてんだ?』
『おお、。いや何、大したことではない。』
『その割には・・・顔がとろけてんなぁ。』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
様、
不器用なぼっちゃまを、
これからもよろしくお願いいたします。
 
貴女様がぼっちゃまのお傍で微笑んで下さったら、
ぼっちゃまはしあわせなのですから。